クラスターでWebフロントエンドをメインに担当しているmt_blue81です。週次リリースから日次リリースへ移行を進め、GitHub Actionsのワークフローを全面的に見直しました。この記事ではその知見と今後の展望を紹介します。
1. なぜ変えたのか
自動化されていたが、さらなる加速を目指して
clusterは、iOS・Androidなどのモバイルアプリ・PCアプリ(Windows・Mac)・VR等マルチデバイスに対応したアプリであり、毎週アプリのアップデートを行っています。
WebのリリースフローはすでにGitHub Actionsで自動化されていました。しかし、Android・iOSなどマルチプラットフォームのウィークリーリリースに同期しているという制約がありました。
各プラットフォームでリリースタイミングを揃えることで、ユーザー体験の一貫性を保ち、リリースノートの管理も簡素化できます。QAフェーズも共通化でき、品質保証の効率が高められていました。 しかしその一方で、Web特有の課題も生まれていました。
Webプラットフォームの特性はデプロイの柔軟性にあります。モバイルアプリのようなストア審査も不要で、サーバーへのデプロイだけで即座にユーザーに届けられます。にもかかわらず、週1回のリリースサイクルに縛られていたため、以下のような状況が発生していました。
- 軽微な改善が1週間待機状態になる
- バグ修正の反映が遅れる1
- A/Bテストや施策の高速なイテレーションが困難
「改善サイクルを回しやすくする」。これが今回のリリースフロー刷新の最大の目的でした。2
「加速していく」カルチャーが後押し
クラスターは 「加速していく」 を大切な価値観として掲げています。この文化が、既存のやり方を変える挑戦を後押ししました。
2025年8月中旬、Design Doc 3 の作成を始めました。そこからおよそ1ヶ月の検討期間を経て、9月中旬に新しいデイリーリリースフローの運用を開始することになります。
2. どう変えたのか
Design Docから始める段階的アプローチ
リリースフローの刷新という大きな変更を進めるにあたり、まずDesign Docの作成から始めました。これは思考実験として全体像を整理し、関係者との合意形成を図るためです。
Design Docを作成後、GitHub Actions有識者やバックエンドエンジニアにレビューを依頼しました。このレビュープロセスを通じて、以下のような課題や懸念点が明らかになりました。
- 他プラットフォームとのバージョン管理の整合性
- リリースノートの扱い方
- ロールバック手順の明確化
- セキュリティ面での考慮事項
Design Docという形で一度立ち止まって検討することで、実装前に多くの問題を洗い出すことができました。
安全に進めるためのアプローチ
リリースフローの変更は、ビジネスに直結する重要な変更です。安全に進めるため、以下のようなアプローチを取りました。
関係者との密なコミュニケーション
特にPM(プロダクトマネージャー)とは、リリース方針について密に調整しました。
リリースノートの運用方針
- ウィークリー単位でまとめるのか、デイリーで細かく出すのか
- 他プラットフォームとの整合性をどう保つか
リリース情報の整理タイミング
- どのタイミングでステークホルダーに情報を共有するか
- リリース内容の優先度判断
段階的な検証プロセス
実装から運用開始まで、以下のステップを踏みました。
- 思考実験: Design Docでの全体設計
- 細分化: 機能ごとに小さなPRに分割
- レビュー: 各PRで丁寧なコードレビューを実施
- dev検証: 開発環境での疎通確認
特に開発環境での検証では、予想どおりではありますがいくつか問題が見つかりました。条件分岐や情報の受け渡し、slack通知まわりなど、試しながら完成させていきました。
実際の改善内容
では、具体的にどう変わったのでしょうか。
Before: ウィークリーリリース(全PF同期) - 水曜日: 動作確認用のビルド作成開始 - 木曜日: すべてのプラットフォームで動作確認 -> ストア申請 - 月曜日: すべてのプラットフォームを一斉リリース - リリース対象: 前週の開発内容すべて - サイクル: 週1回固定
After: デイリーリリース(Web独立) - 月曜日: 他プラットフォームとのバージョン合わせ - 月-金曜日: Web単独でデイリーリリース可能 - サイクル: 基本的に毎日(必要に応じて)
改善の前後を比較すると、以下のようになります。
Before: ウィークリーリリース(全PF同期)

After: デイリーリリース(Web独立)

AIを活用したGitHub Actions構築の実践
GitHub Actionsのワークフロー構築では、Claude CodeやGitHub Copilotを活用しました。AIに雛形を生成させることで、初期実装の時間を大幅に短縮できました。普段あまり触れることのないシェルスクリプトについても、AIの支援により効率的に学習しながら実装を進められました。
具体的には以下のような流れで進めました。
AIで基本的なワークフローの雛形を生成
- デプロイフロー、ロールバックフロー、通知フローの基本構造
- 既存フローからの移行を考慮した設計
- Design Doc作成と並行して行い、Design Docのインプット、補足資料としても活用
社内のGitHub Actions有識者によるレビュー
- セキュリティベストプラクティスの確認
- エラーハンドリングの改善提案
- 保守性を高めるための構造化
Reusable Actionによるモジュール化
- 共通処理を再利用可能なコンポーネントとして切り出し
- 単体テストが容易になり、品質を担保しやすく
- 他のワークフローでも活用でき、チーム全体の効率化に貢献
AIツールの活用により初期実装の時間を大幅に短縮しつつ、専門家のレビューを通じて品質を担保する、という流れで進めることができました。
3. 何を得たのか
改善が回しやすくなった成果
リリースサイクルの変更により以下のような成果が得られました。
- バグ修正を即座にユーザーに届けられるようになった
- 新機能のリリース後、ユーザーフィードバックに基づく改善を翌日には反映可能に
- A/Bテストや施策の高速なイテレーションの土台を実現
実際、運用開始後すぐにその効果を感じる場面がありました。トップページの不具合を発見した際、以前であれば最大1週間ユーザーに影響が出ていたところを、対応完了翌日には修正版をリリースできました。現在は毎日手動でリリースを実行していますが、スケジュール実行による自動化も今後の検討事項です。
Web固有の改善を迅速に反映
他プラットフォームとの同期から解放されたことで、Web特有の改善を提案・推進しやすくなりました。
- CSSアニメーションの微調整
- パフォーマンス改善の段階的な適用
- ブラウザ固有の問題への迅速な対応
これらは以前であれば「週次リリースまで待つ」必要があったものが、必要なタイミングで投入できるようになりました。
今後の展望
この取り組みは、ゴールではなくスタート地点です。 以下、今後取り組んでいきたい内容を紹介します。
nx差分デプロイによる更なる効率化
クラスターのWebプラットフォームでは、nxというモノレポ管理ツールを使用しています。nxでは変更のあったパッケージだけをデプロイする「差分デプロイ」も可能でしたが、今回はまず全体リリースで新フローの確実性を確保することを優先しました。将来的にはnxによる差分デプロイで、さらなる効率化を図る予定です。
また、今回の取り組みで構造化できた部分も多く、フロー自体をさらに改善しやすくなったと考えています。
- 変更のあったパッケージのみをデプロイ
- ビルド時間の短縮
- リリース処理の高速化
他プラットフォームへの知見展開
Webでの成功事例は、他のプラットフォームにも応用できる可能性があります。
- GitHub Actionsのreusable actionは他チームでも活用可能
- 段階的な検証プロセスのノウハウ
- AI活用とレビューを組み合わせた開発手法
継続的な改善サイクルの確立
最も重要な成果は、改善を回しやすい基盤ができたことです。デイリーリリースという選択肢を得たことで、小さな改善を積み重ねていくスタイルを進めていくことができます。
まとめ
Webリリースフローの全面刷新は、技術・文化・人の三位一体で取り組んだプロジェクトでした:
- Why: 自動化されていたが、Web特性を活かした更なる加速を目指した
- How: AI活用、段階的検証、密なコミュニケーションで安全に実現
- What: リリースサイクル短縮、継続的改善の基盤確立、そして今後の展望
「加速していく」という価値観は、このプロジェクトを後押ししただけでなく、今後のさらなるチャレンジの土台にもなりました。既存の仕組みを見直し、より良いものにしていく。そんな改善サイクルを続けていければと思います。